高齢者に多い頚椎症性脊髄症の症状や治療法、また、よく似た症状である後縦靭帯骨化症との違いについて解説します。
頸椎(首の骨)の形が変化して、脊髄を圧迫してしまう病気です。
手足や首の痛み、しびれ、排尿・排便障害などの症状を引き起こします。
主な原因は加齢です。加齢で頸椎の軟骨組織が劣化し、頸椎自体に変形が生じることで起こります。
この状態は「変形性頚椎症」と呼び、加齢にともなって多くの方に生じる現象です。
変形するだけであれば問題ないのですが、この変形した頸椎が脊髄を圧迫し始めると痛みやしびれなどの支障をきたします。
頚椎症性脊髄症は、手足のしびれや歩行困難に始まり徐々に、四肢の感覚異常や手先の細かい作業に支障をきたすなど首から下の身体に何らかの障害を抱えることがわかっています。
これらの症状のほとんどは身体の片側だけに現れるのが特徴です。感覚神経・運動神経・自律神経の領域において何らかの障害を引き起こすことが挙げられます。
ただし、単発ではなく、進行状況によっていくつかの症状を併発するようになります。
頚部の後ろ側に痛みが生じます。日常動作において頚を後方にそらした場合や重量のある荷物を運ぶときに痛みを感じることがあります。
手足の感覚にしびれを感じたり、刺激を正常に感知できなかったりする症状が見られます。また、触れていないのに手足に痛みが走るということもあります。
歩きづらい、早く歩くことができない、階段の昇り降りがつらいなど日常動作において深刻な不自由が生じます。
排尿、排便などの機能に異常をきたしてしまい、トイレの面で不便を感じます。
頚椎症性脊髄症の主な原因は加齢であるとされています。そのため、高齢であればあるほど罹患するリスクは上がり、加齢とともに身体に何らかの不調を抱えるのが常になります。こうしたことから、頚椎症性脊髄症の発見が遅れるというのも珍しくありません。
悪化させないためには、初期症状などをよく把握しておいて常日頃から該当する症状を抱えていないか注意をしましょう。
特にわかりやすい初期症状は、手足のしびれや歩きづらさ。さらに、症状の特徴として左右両方ではなく、どちらか片方のみという傾向があります。初期症状の発見が早いほど、治療法の選択肢が増えます。
発症例の少ない若い人が頚椎症性脊髄症になると、何もない場所で躓くことや歩行に違和感を覚えるなどの自覚症状で気づくことが多いです。
対して、圧倒的に発症例の多い高齢者は、もとから動作に難儀している人も多いことから自覚症状では気づきにくいと言われます。
また、頚椎症性脊髄症の患者は、転倒するなどの軽いケガがきっかけで手足に麻痺を残してしまうことがあります。
取り返しのつかないことにならないためにも、高齢者は早期発見と日常生活での注意が必要になります。
頚椎症性脊髄症の検査は、主に問診から始まりレントゲンやMRIを活用して行われます。
まず、問診でどのような症状が出ているかを確認します。首周りの痛みや手足のしびれ、歩行障害などの有無です。
次に、骨の状態をレントゲンで実際に見てチェックします。この時点で骨の形が分かるので、頚椎症性脊髄症かどうかが判明します。
そして、骨に異常が見つかった場合は、そこを中心にMRIでより詳しく調べます。
MRIでは骨や神経の断面図を見ることができるため、圧迫されている神経の場所と状態を確認することが可能です。この時、神経に圧迫が見られたら、頚椎症性脊髄症と診断されます。
頚椎症性脊髄症は、現在治療が難しい病気です。しかし、軽度であれば温熱療法や薬物療法の保存的療法で痛みを和らげ、支障をきたすことなく日常生活を過ごせます。しかし、放置していると症状が進行してしまい、外科手術による治療が必要になってしまいます。
また、手術をすれば確実に回復するというわけではありません。歩けなくなるほど悪化していた場合、手術が成功しても再び歩けるようになるとは限らないのです。
それでは次に、頚椎症性脊髄症の治療についてより具体的に見ていきましょう。
まずは保存療法を試みますが、それでも症状が改善しない場合は手術を行います。脊髄を圧迫している原因を取り除くのです。圧迫を取り除くことで痛みを軽減させ、術後、保存療法によってさらなる改善を図るといった流れになります。
なお、現代医学においては、脊髄を回復させる治療法は開発されていません。そのため、すでに脊髄を大きく傷つけてしまっている患者については、手術で痛みはなくなったとしても、後遺症が残ってしまう可能性もあります。
軽度の頚椎症性脊髄症は保存的療法で改善できます。では、主な保存的療法について見ていきましょう。
初期段階で軽い痛み程度なら、鎮痛剤を用いた薬物療法で痛みを和らげることが可能です。ただし、根本的な治療方法ではないため、他の治療法と併わせて行われます。 また、しびれなどには効果がありません。
首周りを温めることで、痛みを和らげる治療方法です。これも薬物療法と同じく、根本的な治療にはなりません。温めることで肩こりなどの改善効果も望めます。
器具を使って首を牽引し、症状を和らげる治療法です。
牽引療法には二種類あり、「間歇牽引療法(かんけつけんいんりょうほう)」と、「持続牽引療法」があります。持続牽引療法は持続効果が期待できますが、行っている医療施設は少ないです。
最も基本的な治療方法が装具療法です。これはカラーを付けて首を固定し、頚椎症性脊髄症の症状を抑えるという方法です。
頚椎症性脊髄症の治療で重要なのは、首に負担をかけないことです。
首に負担をかければその分神経が圧迫され、症状が悪化してしまうからです。
そして最も怖いのが、転倒などの不慮の事故により予想外の力が首にかかってしまうことです。
日常生活の中で転ばないように段差を避けたり、家の中の整理整頓をしたりするなどの工夫で、転倒のリスクを大幅に減らせます。
他にも、カラーを付けて首の負担を減らしたり、寝苦しさ解消のために寝具を変えたりするなどの取り組みも有効です。
普段の生活で首に負担を掛けているようであれば、筋肉をほぐして首に溜まった疲れを取る必要があります。
では、首の疲れを取る方法にはどのようなものがあるのか見ていきましょう。
最近、半身浴が流行っています。しかし、半身浴では腰のあたりまでしか浸からないため、肩や首を効果良く温めることができません。
上半身、特に肩や首の疲れを取りたい場合は、全身浴がおすすめです。頚椎症性脊髄症の方は、できるだけ全身浴にしましょう。
入浴目的 | 効果的な入浴方法 | どういった作用があるか |
---|---|---|
ストレスを解消したい | 40度のお湯に長くゆっくり浸かる | ぬるめのお湯は、副交感神経が優位に働き、心身ともに落ち着かせる作用 |
安眠 | 38度~40度のぬるいお湯に浸かる | 体の緊張がほぐれて、神経が落ち着く。また、本来の疲れが表にどっと出てくる |
筋肉の疲れを取りたい |
42度~43度の熱めの湯に浸かる。 心臓・血圧などに問題が無ければ、一度湯船から出て、水を体にかけ再び入浴する。(強めのシャワーを当てると効果的) |
熱いお湯に浸かることで、血液の流れを良くして、疲労物を早く取り除ける効果がある。 |
全身浴をするなら入浴剤を入れた方が、効果もアップします。入浴剤には温浴効果以外に、汚れを落としやすくして肌を綺麗に保つという効果もあります。
「今日は、特に疲れた」と感じる日は、入浴剤を活用してみると良いでしょう。
入浴剤の種類
炭酸ガス:お湯に投入するとシュワシュワ溶けるタイプ。血管を拡張してくれる作用がある。
硫酸ナトリウム:粉末状のもので、お湯に入れてかき混ぜる。肌の表面に薄い膜を作り、温熱作用のサポートをしてくれる。
炭酸水素ナトリウム:重曹の入浴剤。角質や皮脂を落としてツルツル肌にしてくれる。
バスソルト:海塩や岩塩が使われているため、天然のミネラル成分を多く含み、温熱作用がある。
バスオイル:うるおい成分が肌全体を優しく保護し乾燥を防いでくれる。
生薬:様々な薬効成分が体を芯から温め、こり・神経痛・打ち身・くじきなどを改善してくれる。
良い香りでリラックス!おすすめの7大ブランド入浴剤
これらの入浴剤にはアロマ効果があり、心身の疲れを効果的に取り除いてくれます。香りを楽しみながらリラックスしたい時に選ぶと良いでしょう。
首・肩・腰の痛みと凝りを和らげる生薬配合の”薬湯”
首・肩・腰の痛みや疲れには、生薬を配合した「薬湯」がおすすめです。脊髄症対策に効果的な薬湯をいくつか紹介します。
【いぶき湯】
イブキの葉には、芳香性や精油、樹脂が含まれています。この薬湯を入れて入浴することで、神経通や関節痛、腰痛、などの痛みを和らげてくれます。
(作り方)
20㎝の枝先1本又は葉っぱ2~3枚(入浴1回分)を適当な大きさに切り刻み、鍋に入れ20分くらい煮出す。煮汁を溜めておいた湯船に入れてかき混ぜる。
【さんしょう湯】
山椒の葉や茎、種を薬湯として利用します。独特な香りがしますが、これは、痛風、疲労回復、神経痛、リウマチなどに効果があるとされています。
肌の弱い方は肌荒れする可能性があるので気をつけてください。
(作り方)
山椒の葉や茎などを適量、手で掴み布袋に入れてお湯で煮出し、湯船に汁と袋を投入する。
【菊湯】
日本には、リュウノウギク、ノギク、ヤマギクなどの品種があり、どれも薬湯として利用できます。神経痛や腰痛、肩こりなどの改善に効果があります。
(作り方)
適当の大きさに切り天日干しで乾燥させる。乾燥したものをおよそ一握り袋に詰めて煮出し、それを風呂の中に入れる。
枕には脊髄症対策用のものがあります。とは言っても自分に合った脊髄症対策用の枕を探すのは結構大変です。
そこで紹介したいのが、自分で高さや硬さなどを調整できる「タイル枕」です。タオル枕は、頸椎矯正や睡眠時無呼吸症候群対策に効果的とされています。
家にあるバスタオルですぐに作れるので、是非試してみてください。
1.バスタオルの幅が長い面の両端を持って、長方形が横向きになるように両手で持ちます。
2.縦に長くなるようにして、半分に折り曲げます
3.今度は横に短くなるようにして、また更に半分に折りたたみます。
4.テーブル、床に置いてタオルの端っこ部分から強めにロールになるように、巻き上げていきます。
5.最後に巻き上げたタオルの両端を紐で縛ります。
脊髄を圧迫しているものが違います。頚椎症性脊髄症の場合は前述した通り「変形した首の骨」が脊髄を圧迫しますが、後縦靭帯骨化症の場合は「骨化した靭帯」が脊髄を圧迫するのです。
ともに脊髄を圧迫しているという点では共通しているため、症状も似ています。
ただし、圧迫の原因が異なっているため、とくに手術療法といった場合は切除する対象が異なります。
1から分かる後縦靱帯骨化症の治療ガイド