このページでは、後縦靭帯骨化症(OPLL)の手術療法の種類やリスクについてご紹介しています。
後縦靭帯骨化症という行基は、症状が強く保存療法では対応できない場合や、進行が早い場合には、手術療法が用いられます。
骨化の状態や部位に応じて様々な手術方法がありますが、後縦靭帯骨化症では主に2つの手術療法が主流です。
まずは、脊柱管を広げる椎弓形成術、そして骨化下靭帯を摘出する前方除圧固定術です。症状や治療の方針に応じてどちらかの術式が選ばれます。
また、その症状によっては頸椎後方除圧固定術と呼ばれる術式をとる場合もあります。
これは、首の後方を切開して、脊柱管を構成している椎弓の一部を切り取り、神経の圧迫を取り除く方法です。さらに、患者さん自身の骨を移植したり、ネジで固定することで頸椎の安全性を高めます。
後縦靭帯骨化症の手術療法の一つである、椎弓形成術。椎弓形成術は、後縦靭帯骨化症の手術の中でももっとも安全と言われる方法で、多く行われている術式です。
首の後ろ側から切開し、脊髄が収まっている脊柱管を形作っている椎弓を開いて広げます。そうすることで、脊髄神経の圧迫を取り除きます。
高い治療効果を発揮し、失敗の少ない手術ではありますが、問題もいくつかあります。
脊柱管を広げると、脊髄は後方に逃げてしまうとされていて、椎弓形成術を行った場合にも多少なりとも頸椎の移動が認められています。また、後方に出っ張った後縦靭帯骨化がある場合には、再び出っ張った部分で骨化が始まると脊柱を圧迫してしまう可能性もあります。
これらの問題を回避するため、頸椎が湾曲している場合や大きな骨化症がある場合には別の術式を選ぶことをおすすめします。
また、ネジで部位を固定したり、首の後ろの筋肉をできる限り温存する方法を使うなど、椎弓形成術を行う場合にも症状にあった対策がとる必要があります。
椎弓形成術がよく用いられている理由としては、安全性が高いことの他に、多くの術式が存在するということが挙げられます。多くの術式があるということは、それだけ適応できる病変が幅広く、医師はより自分に適していて、より効果的だと思える術式を選択できるからです。また、参考として品川志匠会病院では、手術総数の約39%が椎弓形成術の適応となっています。
参考:脳神経外科ジャーナル『(PDF)本邦で発達してきたさまざまな頸椎椎弓形成術』
「頚椎後縦靱帯骨化症診療ガイドライン 2011」によると、前方・後方合わせた治療実績から見て、椎弓形成術で症状が悪化した件数は6%と報告されているので、成功率は94%です。
後方除圧90例(椎弓形成術49例,椎弓切除41例)と前方除圧固定34例の検討では,術中因子が原因で手術直後に脊髄症状が悪化した症例は5%(椎弓形成術の3例:6%,椎弓切除術の2例:5%,前方除圧固定術の1例:3%)であった.
他の術式と比較してみると、少々悪化した割合が高いように思えるかもしれません。ですが、後方法である椎弓切除術では術後に後弯変形が進行する確率が高いと言われているので、成功例の中では椎弓形成術の方が術後の予後が良い傾向にあります。
前方固定術は、首の前側から切開し、骨化している後縦靭帯を切除し、椎体があった部分に患者自身の骨を移植する手術です。
この術式のメリットは、骨化した部位のほとんどを切除できるため、脊髄圧迫の原因を直接取り除くことができることです。
さらに、骨を移植することで首が安定し、長い年月を経て脊髄が回復してくるという症例もあります。
的確に骨化部位を切除できることや、術後の回復経過が早いというメリットがあり、患者さんにとっては最良の術式ともいえます。
しかし、技術的に難しい手術であり、誰にでも行える術式ではありません。骨を削る際に神経を傷つけてしまったり、移植した骨が外れてしまって合併症を患ってしまったりと、医師の技術が追いついていないと、重篤なケースに陥る可能性もあります。
そのため、前方固定術を選択する場合には、その病院での症例数の多さや技術の高さを見極め、信頼できる医師のもと受けるようにすることが大切です。
前方固定術は良い術式ではありますが、適応できる条件が少し厳しくなるため、やはり椎弓形成術の方が用いられる機会が多くなっています。こちらでも、例として品川志匠会病院の実績を用いて計算してみると、頸椎の手術を行った総数に対しての術式の選択は次の通りです。
椎弓形成術が圧倒的に多くなっていますが、それでも、椎弓形成術による手術を受けなかった患者は、そのほとんどが前方固定術を受けているということでもあります。椎弓形成術と比較すると少なく見えますが、選択される確率としては高いと言えるでしょう。
椎弓形成術のところでご紹介した「頚椎後縦靱帯骨化症診療ガイドライン 2011」のデータによると、前方固定術で症状が悪化した例は3%であり、成功率は97%となります。
OPLLの脊柱管占拠率が60%を超える症例では,前方手術が後方手術に比べて成績が良かったとの報告があり,OPLLの骨化巣の大きさが手術法選択の一つの判断要素になりうる可能性がある.
また、成功したとしても、このように頚椎後縦靱帯骨化症の状態によって術後の結果も変化します。どの術式が最も適しているかは、医師の診断を受けた上で、相談しながら決めるべきです。
後方除圧固定術は、椎弓形成術の手法のように後部から椎弓を切開します。それに加え、医療用のスクリューで固定し、より安定した状態で手術を行うというものです。
これにより、椎体が不安定な患者にも対応できるようになりました。医療機関の判断によって前方除圧固定術とともに検討されて、どちらがより患者の状態に適切かで外科手術方法が変わります。
基本的に切開方法など椎弓形成術と同様です。これに加えて切開する筋肉量が増えてしまうので、術中の出血や術後に現れる筋肉痛の頻度が上がる可能性があります。
また、脊髄をカバーする膜を傷つけることで引き起こされる髄液漏(ずいえきろう)やスクリューの折損なども考えられます。
いずれも高度な技量を求められる外科手術で、それに伴うリスクも同様に存在すると言われています。
方除圧固定術が選択されることはあまり多くないようです。後方除圧固定術の適応となる症状の方が少ないという可能性もありますが、やはり難易度の高い術式であるということも影響していると考えられます。例として挙げている品川志匠会病院でも、後方除圧固定術は年間20件ほどに留まっています。
同医院では、頸椎に対する手術が年間約400件となっており、その中の20件となれば、全体の5%程度の割合です。椎弓形成術や前方固定術と比べると、かなり少ない数字であることがわかるでしょう。
頚椎後縦靱帯骨化症の治療において、後方除圧固定術、前方除圧固定術、脊柱管拡大術の3つの改善度を、術後に比較したというデータがあったのでご紹介します。
・後方除圧固定術:42.3%
・前方除圧固定術:65.2%
・脊柱管拡大術:20.7%
他の術式と比較してみると、脊柱管拡大術よりは良いものの、前方除圧固定術の方が良好な結果を残していることがわかります。後方除圧固定術には、椎体が不安定でも用いることができるという強みがあるため、他の術式が選択できないときに用いられるものかもしれません。
縦靱帯骨化症は手術によって根本的に治療することはできません。ただし、手術に適したタイミングというものもあり、それを逃さないことも大切です。手術で縦靱帯骨化症を治療するのがオススメの方は、次のような方が挙げられます。
残念ながら、頚椎後縦靱帯骨化症のガイドラインによれば、明確な手術のタイミングを見極めるための判断基準はまだ確立されていません。また、前方固定術と椎弓形成術、2つの手術方法どちらがいいかというのも医師の判断によるところが多いもの。ガイドラインでは椎弓形成術は、靭帯が縦方向に長く骨化している方、前方固定術は骨化している靭帯の範囲が3追加の椎間でまだ止まっている場合がオススメとされています。
手術治療は、痛みやしびれなどの症状を完治することはできませんが、改善することで生活の質が上がったと感じる方も多いとされています。保存療法を続けてきたけれどなかなか症状が良くならない。痛みや痺れが悪化してきているという方は、専門医に相談してみるといいでしょう。手術を受けるのに若い方、高齢の方どちらがいいとは一概には言えませんが、発症してからの時間が長いよりは、早めの手術の方が効果が得やすいという説もあります。また、手術治療による症状の改善度合いは平均5割程度。完治するわけではないことも覚えておきましょう。
ただし、縦靱帯骨化症の手術治療には合併症や副作用のリスクも伴います。経験豊富な専門医にかかる。セカンドオピニオンを取るなどして、縦靱帯骨化症の手術に対し俯瞰的な意見なども聞いたうえで、手術内容に納得して手術治療を受けることが大原則となります。
出典:『患者さんのための頚椎後縦靱帯骨化症ガイドブック』
http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/OPLL/05_ch5_OPLL_GB.pdf
1から分かる後縦靱帯骨化症の治療ガイド